「真の花」を咲かせるとき
2020/05/29 商売のヒント
紫陽花(アジサイ)の季節になりました。あっという間に世界が変わり、新たな価値観に塗り替わっていく様子を目の当たりにしていると「七変化」と呼ばれる紫陽花の、花の色の移り変わりに今年は一層、目を奪われます。世の中が騒がしくても季節は巡り、今年も美しい花を咲かせてくれる自然のありがたみが身にしみる日々。花には癒し効果があるとされます。
指先の心拍変動性と気分プロフィール検査というもので実験したところ、実際に花がストレスを緩和してリラックス効果を高めることが明らかになったそうです。能の大成者である世阿弥は、著書『風姿花伝(ふうしかでん)』で、観客に感動を与える力を「花」にたとえています。若い演者は美しい声と姿をもつが、それは「時分(じぶん)の花」に過ぎず、いずれ失われていく。
しかし工夫を重ねて精進すれば、やがては能の奥義である「真(まこと)の花」が現れ、それは決して失われることはない――。「時分の花」とは、若さによって現れる芸以前の一時的な面白さ。「真の花」とは、稽古と工夫を究めた本当の芸のうまさ。その間に咲くのが「工夫の花」です。
「時分の花」に慢心して努力を怠ると、花はすぐに色あせます。人は人生の大半を「工夫の花」として過ごしていくのでしょう。「少年よ大志を抱け」で知られたクラーク博士の全文は「少年よ大志を抱け。金や私欲のためではなく、名声などと呼ばれる空しいものでもなく、人間として当然持つべきもののために大志を抱け」とされています。
皆さんの心に宿る少年は、どんな大志を抱いているでしょうか。その大志は、咲く時期を待っている「真の花」と重なるように思います。「ピンチはチャンス」という聞き飽きた言葉が今、これほど心に響く理由を改めて考えてみるときかもしれません。ちなみに、紫陽花の代表的な花言葉は「移り気」でしたが、最近は「辛抱強い愛」「家族の結びつき」なども広がっているようです。辛抱強く、助け合って、ピンチをチャンスに変えていきたいものですね。