お客さまの立場で考える
2021/06/30 商売のヒント
商売では「お客さまのため」という言葉をよく聞きますが、この言葉があだになることもあるようです。ある有名企業でのお話。新入社員のAさんが「お客さまのためには○○がいいと思います」と上司に提案したところ「うちでは“お客さまのために”と考える社員はいらない」と言われて驚いたそうです。
その会社が社員に求めているのは「お客さまのため」ではなく「お客さまの立場で考える」ことでした。その会社によれば「お客さまのため」とは、川の向こう側にいる人に一方的にボールを投げるようなもので、売り手の思い込みや決めつけを一方的に押し付けているのと変わらない。つまり、売り手の立場で考えている限り、お客さまが本当に望んでいることを探し出すことはできないという教えでしょう。
たしかに売り手のものさしで相手をはかると、理解はされても共感は得にくくなります。一方「お客さまの立場で考える」とは、相手の状況を考慮して想像しながら行動すること。
お客さまが望んでいることを探り出すためには、自分が良いと思うことの真逆を提案することもあれば、自分の経験や知識を否定して、さらには自分のやり方を変えるところまで踏み込んで考え直さないといけないこともある。そこまでするからこそ、お客さまが本当に望んでいることにたどり着けると言われたそうです。
Aさんは、最初の頃こそ「“お客さまのため”の何がいけないのか」と理不尽に感じたものの、ふと「お客さまのため」と言いながら結局は自分目線で行動していることに気付いたそうです。自分のできる範囲でやろうとしたり、今の仕組みの中で解決しようとするのは、自分目線で自分都合の行動に過ぎない。お客さまの立場で考えるとは、自分たちに不都合なことでも実行するというお客さま目線であり、お客さまの都合を最優先した選択である。入社から3年経ったとき、お客さまから「君に出会えてよかったよ」と言ってもらえたAさんは、今でも「お客さまの立場で考える」を日々実践しているそうです。